塩原薬型薬物の経口吸収率予測 溶解度上皮膜透過律速の場合
2025-04-05
今回の研究では、塩原薬型薬物の経口吸収率(Fa)予測を、溶解度上皮膜透過律速(SL-E)の場合について検討しました。
Correlation Between Dissolution Profiles of Salt-Form Drugs in Biorelevant Bicarbonate Buffer and Oral Drug Absorption: Importance of Dose/ Fluid Volume Ratio
https://link.springer.com/article/10.1007/s11095-025-03854-y?utm_source=rct_congratemailt&utm_medium=email&utm_campaign=oa_20250404&utm_content=10.1007%2Fs11095-025-03854-y
塩原薬型薬物のFa予測は、その溶出挙動に溶出-過飽和-析出の各プロセスが関与するため、非常に難しい問題です。過飽和-析出プロセスは、現在の科学では薬物固有パラメータ(固有溶解度やpKaなど)からの予測ができません。我々の知る限り、これまでin vitroのデータだけからbottom-upでFaを予測した例はありませんでした。
そこで今回は、溶出試験で得られる溶出プロファイルを用いた予測を試みました。まず最初の試みとして、SL-Eの場合について検討しました。SL-Eは、大まかには、BCS class IV(low solubility, low permeability)に対応します。
なぜ?BCS IVにしたのか?疑問に思われる方も多いと思います。
直感的には、BCS IVのほうが、BCS II(low solubility, high permeability)よりも予測が難しいような気がします。しかし、BCS IIの場合、消化管内においては、高い膜透過クリアランスによる濃度低下が過飽和-析出プロセスに大きく影響します。いまのところ、in vitro試験で生体と同じ程度に高い膜透過クリアランスを再現することは難しく、したがって、予測が難しくなります。
一方、SL-E(≒BCS IV)であれば、膜透過クリアランスが、溶出-過飽和-析出プロセスに影響を与えないので、単純な溶出試験における溶出プロファイルでOKと考えました。この場合、溶出試験における平均溶解濃度を用いることで、Faを予測することができます。
また、生体内と同じ緩衝液濃度と投与量/試験液体積比(Dose/FV)を溶出試験に用いた場合、薬物の溶出によりpHが変化することから、今回は、10 mM炭酸緩衝液を用いDose/FVをヒトに近い条件にしました。
今回の検討は、Caco-2膜透過係数が良く検討されているfluoroquinoloneをモデル薬物として用いました。特に、ciprofloxacinについて、様々な検討を行いました。なお、ciprofloxacinは、ラットin situ膜透過試験も行われており、Caco-2から予測したPeffとラットから予測したPeffはほぼ同じ値になります。
結果、SL-Eの場合、溶出試験に使用する緩衝液とDose/FVをヒトに近い条件にすることで、溶出プロファイルからFaを定量的に予測できることがわかりました。一方で、リン酸緩衝液を用いた場合や、一般的な溶出試験で用いられる低Dose/FV比では予測は外れました。
ところで、論文中でも議論していますが、ciprofloxacinについては、これまでPBPKモデルを用いた検討が、いくつか論文報告されています。いずれも、臨床PKデータに対して良好に合うシミュレーション結果を示しています。それらの結果から、ciprofloxacinは溶解度が高く膜透過性も高いBCS I薬物であると結論されています。しかし、これは、in vitroデータに基づくBCS分類(BCS IV)とは矛盾します。これらの論文をよく読むと、純水へ塩酸塩の溶解度をpH 7.0における溶解度と勘違いしていたり(純水の場合、pH緩衝作用がないため、pHが大きく下がり、溶解度は非常に大きくなる(物性研究者なら、こんなこと当たり前ですよね?))、Peffをparameter fittingしたりしています(非常に高いPeffにしている)。PBPKモデルを誤って使用すると、このような誤った結論が導かれてしまいます。なんども繰り返しになりますが、PBPKモデルでparameter fittingを行えば、どんなPKデータにでも合うシミュレーションを得ることができます。そのことは、理論式やinputデータが正しいことを意味しているのではありません。逆に、たった一つでもparameter fittingすることより、たとえ理論やinputデータに間違いがあっても、すべて隠蔽されてしまいます。このことは、科学の発展にとってダメージが大きいです。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/582784
今回の結果は、生体に近い溶出試験条件を用いれば、塩原薬の薬物についても、Faをしっかりと予測できることを示しています。今回は、SL-Eについての検討でしたが、SL-Uについても現在研究中です。お楽しみに!
Correlation Between Dissolution Profiles of Salt-Form Drugs in Biorelevant Bicarbonate Buffer and Oral Drug Absorption: Importance of Dose/ Fluid Volume Ratio
https://link.springer.com/article/10.1007/s11095-025-03854-y?utm_source=rct_congratemailt&utm_medium=email&utm_campaign=oa_20250404&utm_content=10.1007%2Fs11095-025-03854-y
塩原薬型薬物のFa予測は、その溶出挙動に溶出-過飽和-析出の各プロセスが関与するため、非常に難しい問題です。過飽和-析出プロセスは、現在の科学では薬物固有パラメータ(固有溶解度やpKaなど)からの予測ができません。我々の知る限り、これまでin vitroのデータだけからbottom-upでFaを予測した例はありませんでした。
そこで今回は、溶出試験で得られる溶出プロファイルを用いた予測を試みました。まず最初の試みとして、SL-Eの場合について検討しました。SL-Eは、大まかには、BCS class IV(low solubility, low permeability)に対応します。
なぜ?BCS IVにしたのか?疑問に思われる方も多いと思います。
直感的には、BCS IVのほうが、BCS II(low solubility, high permeability)よりも予測が難しいような気がします。しかし、BCS IIの場合、消化管内においては、高い膜透過クリアランスによる濃度低下が過飽和-析出プロセスに大きく影響します。いまのところ、in vitro試験で生体と同じ程度に高い膜透過クリアランスを再現することは難しく、したがって、予測が難しくなります。
一方、SL-E(≒BCS IV)であれば、膜透過クリアランスが、溶出-過飽和-析出プロセスに影響を与えないので、単純な溶出試験における溶出プロファイルでOKと考えました。この場合、溶出試験における平均溶解濃度を用いることで、Faを予測することができます。
また、生体内と同じ緩衝液濃度と投与量/試験液体積比(Dose/FV)を溶出試験に用いた場合、薬物の溶出によりpHが変化することから、今回は、10 mM炭酸緩衝液を用いDose/FVをヒトに近い条件にしました。
今回の検討は、Caco-2膜透過係数が良く検討されているfluoroquinoloneをモデル薬物として用いました。特に、ciprofloxacinについて、様々な検討を行いました。なお、ciprofloxacinは、ラットin situ膜透過試験も行われており、Caco-2から予測したPeffとラットから予測したPeffはほぼ同じ値になります。
結果、SL-Eの場合、溶出試験に使用する緩衝液とDose/FVをヒトに近い条件にすることで、溶出プロファイルからFaを定量的に予測できることがわかりました。一方で、リン酸緩衝液を用いた場合や、一般的な溶出試験で用いられる低Dose/FV比では予測は外れました。
ところで、論文中でも議論していますが、ciprofloxacinについては、これまでPBPKモデルを用いた検討が、いくつか論文報告されています。いずれも、臨床PKデータに対して良好に合うシミュレーション結果を示しています。それらの結果から、ciprofloxacinは溶解度が高く膜透過性も高いBCS I薬物であると結論されています。しかし、これは、in vitroデータに基づくBCS分類(BCS IV)とは矛盾します。これらの論文をよく読むと、純水へ塩酸塩の溶解度をpH 7.0における溶解度と勘違いしていたり(純水の場合、pH緩衝作用がないため、pHが大きく下がり、溶解度は非常に大きくなる(物性研究者なら、こんなこと当たり前ですよね?))、Peffをparameter fittingしたりしています(非常に高いPeffにしている)。PBPKモデルを誤って使用すると、このような誤った結論が導かれてしまいます。なんども繰り返しになりますが、PBPKモデルでparameter fittingを行えば、どんなPKデータにでも合うシミュレーションを得ることができます。そのことは、理論式やinputデータが正しいことを意味しているのではありません。逆に、たった一つでもparameter fittingすることより、たとえ理論やinputデータに間違いがあっても、すべて隠蔽されてしまいます。このことは、科学の発展にとってダメージが大きいです。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/582784
今回の結果は、生体に近い溶出試験条件を用いれば、塩原薬の薬物についても、Faをしっかりと予測できることを示しています。今回は、SL-Eについての検討でしたが、SL-Uについても現在研究中です。お楽しみに!