クリアランスに感じたモヤモヤ感
2025-01-11
薬物動態における「クリアランス」の考え方は、初学者や他の分野の研究者にとって、とても分かりにくいと思います。私自身、初めてクリアランスについて学んだ際、とてもモヤモヤした気持ちになりました。以下、私の無学・浅学でお恥ずかしいのですが、なぜ、そう感じたのかを書きたいと思います。
クリアランスは50年以上前(1973年)に導入されましたが、現在でも、導入した当事者である大御所の先生たちの間で、その定義について激論が交わされております。その論点の1つが、全身クリアランスは、モデル依存的か?モデル非依存的か?、という点でした。もし、モデル依存的であるならば、どのモデルを選択するかによって、値が変わってしまう懸念があります。
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まず初めに、全身クリアランスは、肝クリアランスモデル(例えば、Well-stirred model(WSM)やparallel tube model)とは関係なく、定義されます。この意味では、モデル非依存的と言えます。なぜ、1973年論文の著者間で誤解が生じるかというと、おそらくは、その論文ではWSMを事例として用いて、クリアランスの定義が議論されているためかな?と思います。
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一方で、臨床薬物動態試験のガイドラインには、以下のように書かれています。
https://www.pmda.go.jp/files/000206738.pdf
「標準的な薬物動態試験法では、十分な測定時点数を確保し、モデルに依存しない解析法により、血中濃度―時間曲線下面積(AUC)、クリアランス、最高血中濃度(Cmax)、最低血中濃度(Cmin)、最高血中濃度到達時間(tmax)、定常状態分布容積(Vdss)、平均滞留時間(MRT)、半減期(t1/2)等を求める。さらに、コンパートメントモデル等に基づくモデル解析を利用すると、上記薬物動態パラメータに加え、速度定数、分布容積(V1,Vdβ,Vdss)に関する情報が得られる。」
また、クリアランスの定義については、
「(全身)クリアランス―薬物の体内から消失する速度を、単位時間あたりに体内から消去される量の薬物を含んだ体液(一般に血液)の容積で表した概念。もしくは、消失速度=CL×体液中濃度 として表したときの比例定数(CL)。」
また、とある薬物動態の教科書では、
CLはモデル非依存的解析の部分で
CL = Dose/AUC
と説明されていますが、その何ページか後には、
「1コンパートメントモデルに従うとき」
と明記されています。
いったいどっちが正しいのでしょう???
物性研究者としての私の見解(=クリアランスはモデル依存的である)を、以下のブログに書きました。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/578117
たしかに、AUC, Cmax, Tmax, MRTなどは、モデルに依存しないで計算できます。やさしく言うと、これらは単に血中濃度推移曲線の「形」の特徴を表しています。単に「形」の記述なので、モデルは必要ありません。
一方で、クリアランスはそうではありません。
クリアランスが、以下の常微分法的式、
消失速度(EL, dX/dt)=CL×体液中濃度(C)(CLは比例定数)
と定義されるということは、CLは薬物濃度や投与後の時間に依らず一定(定数)であり、かつ、それに濃度の1乗を掛けた値が消失速度になる(つまりは1次反応)と、定義しているということです。この定義は、明らかに、体内からの消失が1次反応であるとモデル化(仮定、近似)しています。
また、CL = Dose/AUCが成立するのは、上記の数式において、CLが定数で、かつ、濃度に対する1次反応の場合のみです。この場合のみ、dX/dt=CL×Cの右辺が簡単に積分できて、CL = Dose/AUCになります。CLが濃度に依存する場合には、簡単には積分できません。
ほとんどの場合、薬物動態の反応は1次で近似できますので、はじめのうちはあまり難しく考えないで慣れてしまえばよいのかもしれません。しかし、慣れてきたら、基礎的な部分について、深く考えてみるのも、面白いかもしれないです。
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1973年論文のモデル図をじっくり考えてみると、代謝臓器以外の全身を、良く攪拌された一つのコンパ―トメントとして定義していることがわかります。代謝臓器(肝臓)にとってのCin (Cin_Liver)は全身にとってのCout(Cout_STB, systemic blood)です。そして、
Cout_STB=全身コンパートメントの濃度
としています。これは、すなわち全身に対してWSM(WSM_STB)を仮定しているのと同じことです。このことについては、EJPS2024のコメンタリーで述べました。一般に、実際に採血しているのは静脈で、そこと全身循環血とで、薬物濃度が同じとするのは妥当ですが、それでも、あくまで仮定なのかな?と思っています。
クリアランスは50年以上前(1973年)に導入されましたが、現在でも、導入した当事者である大御所の先生たちの間で、その定義について激論が交わされております。その論点の1つが、全身クリアランスは、モデル依存的か?モデル非依存的か?、という点でした。もし、モデル依存的であるならば、どのモデルを選択するかによって、値が変わってしまう懸念があります。
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まず初めに、全身クリアランスは、肝クリアランスモデル(例えば、Well-stirred model(WSM)やparallel tube model)とは関係なく、定義されます。この意味では、モデル非依存的と言えます。なぜ、1973年論文の著者間で誤解が生じるかというと、おそらくは、その論文ではWSMを事例として用いて、クリアランスの定義が議論されているためかな?と思います。
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一方で、臨床薬物動態試験のガイドラインには、以下のように書かれています。
https://www.pmda.go.jp/files/000206738.pdf
「標準的な薬物動態試験法では、十分な測定時点数を確保し、モデルに依存しない解析法により、血中濃度―時間曲線下面積(AUC)、クリアランス、最高血中濃度(Cmax)、最低血中濃度(Cmin)、最高血中濃度到達時間(tmax)、定常状態分布容積(Vdss)、平均滞留時間(MRT)、半減期(t1/2)等を求める。さらに、コンパートメントモデル等に基づくモデル解析を利用すると、上記薬物動態パラメータに加え、速度定数、分布容積(V1,Vdβ,Vdss)に関する情報が得られる。」
また、クリアランスの定義については、
「(全身)クリアランス―薬物の体内から消失する速度を、単位時間あたりに体内から消去される量の薬物を含んだ体液(一般に血液)の容積で表した概念。もしくは、消失速度=CL×体液中濃度 として表したときの比例定数(CL)。」
また、とある薬物動態の教科書では、
CLはモデル非依存的解析の部分で
CL = Dose/AUC
と説明されていますが、その何ページか後には、
「1コンパートメントモデルに従うとき」
と明記されています。
いったいどっちが正しいのでしょう???
物性研究者としての私の見解(=クリアランスはモデル依存的である)を、以下のブログに書きました。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/578117
たしかに、AUC, Cmax, Tmax, MRTなどは、モデルに依存しないで計算できます。やさしく言うと、これらは単に血中濃度推移曲線の「形」の特徴を表しています。単に「形」の記述なので、モデルは必要ありません。
一方で、クリアランスはそうではありません。
クリアランスが、以下の常微分法的式、
消失速度(EL, dX/dt)=CL×体液中濃度(C)(CLは比例定数)
と定義されるということは、CLは薬物濃度や投与後の時間に依らず一定(定数)であり、かつ、それに濃度の1乗を掛けた値が消失速度になる(つまりは1次反応)と、定義しているということです。この定義は、明らかに、体内からの消失が1次反応であるとモデル化(仮定、近似)しています。
また、CL = Dose/AUCが成立するのは、上記の数式において、CLが定数で、かつ、濃度に対する1次反応の場合のみです。この場合のみ、dX/dt=CL×Cの右辺が簡単に積分できて、CL = Dose/AUCになります。CLが濃度に依存する場合には、簡単には積分できません。
ほとんどの場合、薬物動態の反応は1次で近似できますので、はじめのうちはあまり難しく考えないで慣れてしまえばよいのかもしれません。しかし、慣れてきたら、基礎的な部分について、深く考えてみるのも、面白いかもしれないです。
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1973年論文のモデル図をじっくり考えてみると、代謝臓器以外の全身を、良く攪拌された一つのコンパ―トメントとして定義していることがわかります。代謝臓器(肝臓)にとってのCin (Cin_Liver)は全身にとってのCout(Cout_STB, systemic blood)です。そして、
Cout_STB=全身コンパートメントの濃度
としています。これは、すなわち全身に対してWSM(WSM_STB)を仮定しているのと同じことです。このことについては、EJPS2024のコメンタリーで述べました。一般に、実際に採血しているのは静脈で、そこと全身循環血とで、薬物濃度が同じとするのは妥当ですが、それでも、あくまで仮定なのかな?と思っています。