肝クリアランスにおけるfree fraction theoryは十分正確か?

2024-12-07
以前から、古典的なWell-stirred model (WSMclassic)に基づくin vitro代謝試験のデータからのin vivoクリアランスの予測は、タンパク結合率が高い薬物では、4-5倍以上過小予測することが知られていました。

WSMclassic
1/CLh = 1/Qh + 1/(fu,b * CLenzyme,u)

WSMclassicは、様々な仮定を置いて導かれていますので、どの仮定が過小予測の原因なのか?が議論の的になっています。なかでも、free fracton theory (FFT)による近似が十分ではないことが、様々な実験結果から示されております。

WSMclassicにおいては、FFTに関して、以下の2つが仮定されています。
(1) 肝臓内血液中の非結合型薬物分子のみが膜透過に寄与する。
(2) 肝細胞内の非結合型薬物分子のみが代謝酵素/排泄トランスポータにより代謝/排泄される。

WSMclassicでは十分ではない場合として、(1)については、以前よりalbmin mediated uptakeが検討されております。

一方で、(2)については、疑う人が少ないように思います。しかし、(2)についてもFFTは十分ではないことが示されています。

(i) Baba, T., Touchi, A., Ito, K., Yamaguchi, Y., Yamazoe, Y., Ohno, Y., & Sugiyama, Y. (2002). Effects of serum albumin and liver cytosol on CYP2C9-and CYP3A4-mediated drug metabolism. Drug metabolism and pharmacokinetics, 17(6), 522-531.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dmpk/17/6/17_6_522/_article/-char/ja/

(ii) Trunzer, M., Teigão, J., Huth, F., Poller, B., Desrayaud, S., Rodríguez-Pérez, R., & Faller, B. (2024). Improving In Vitro–In Vivo Extrapolation of Clearance Using Rat Liver Microsomes for Highly Plasma Protein-Bound Molecules. Drug Metabolism and Disposition, 52(5), 345-354.
https://dmd.aspetjournals.org/content/52/5/345.abstract

(iii) Yan, Z., Ma, L., Hwang, N., Huang, J., Kenny, J. R., & Hop, C. E. (2024). Using the Dynamic Well-Stirred Model to Extrapolate Hepatic Clearance of Organic Anion-Transporting Polypeptide Transporter Substrates without Assuming Albumin-Mediated Hepatic Drug Uptake. Drug Metabolism and Disposition, 52(6), 548-554.
https://dmd.aspetjournals.org/content/52/5/345.abstract

(iv) Yan, Z., Ma, L., Carione, P., Huang, J., Hwang, N., Kenny, J. R., & Hop, C. E. (2024). Introducing the dynamic well-stirred model for predicting hepatic clearance and extraction ratio. Journal of Pharmaceutical Sciences, 113(4), 1094-1112.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022354923005683

いずれの論文でも、タンパク共存下において非結合型分率から予想されるよりも、CYPによる代謝速度がかなり速いという実験データが示されています。

論文(ii),(iii),(iv)では、血清やalbuminの共存下における、microsomeやrCYPによる代謝速度を調べています。しかし、本来は(i)のように、cytosolを加えた系で検討すべきだと思います。(繰り返しになりますが、WSMclassicでは、数式上、CLenzyme,uに血中非結合型分率(fu,B)がかかっていますが、これは、血中の薬物が直接CYPにより代謝されることを示しているのではありません。あくまで、代謝されるのは細胞内の薬物です。詳しくは以前のブログをご覧ください。)

また、論文(iii),(iv)では、dynamic free fractionという考えを導入(仮定)して説明していますが、論文(ii)では、溶液化学的にactivity(活量)で説明しています(=タンパクに結合した分子も代謝される)。これはたぶん、(ii)の研究に物性研究者が関与しているためと思います(Fallerさんです。)

いずれにせよ、実験事実は、肝クリアランスに関して、タンパク結合が大きい(fuが小さい)薬物については、FFTは十分ではないことを示しています。この実験事実を説明できる数理モデルとしては、いろいろ考えられますが、fuがある程度大きい場合には、FFTで近似されるようなモデルになると思います。
(ニュートンの重力理論が、アインシュタインの一般相対性理論の近似になっているように。)

さて、ここで問題となるのは、これまでに報告されている「一見完璧に血中濃度推移を”予測”しているPBPKモデル」でしょう。なぜなら、これらほぼすべてにおいて、肝クリアランスに関して、FFTが用いられているからです。もし、論文(i)-(iv)の実験事実が支持するように、FFTがかなり不十分だとしたら、これらのPBPK論文は、見直しを余儀なくされるでしょう。