炭酸緩衝液はどのような場合に使うべきか?
2024-11-23
先日の第12回PCF-Jは、大盛況でした。
ご参加いただいた方々、大変ありがとうございました。
残念ながら今回は参加できなかった皆様、来年は是非ご参加ください。
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まとめのディスカッションの際に、「炭酸緩衝液はどのような場合に使うべきか?」というご質問がありました。溶出試験には、これまでずっと、リン酸緩衝液が使用されてきたことを考えると、当然のご質問です。各国の局方に記載されているのもリン酸緩衝液ですし(JP2, USP SIF)、学校の教科書にもそう書いてあります。
さて、ここで一度、ゼロベースで、先入観抜きに考えてみたいと思います。
生体のpHは、炭酸緩衝液で維持されています。これは、確実な事実です。
一方で、USP SIFやJP2の由来は、pHメーター用の中性pH標準液(pH 6.8リン酸緩衝液)です。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/553656
そうすると、本来、我々が本来問わなければならないのは、
「どのような場合に、生体と同じ炭酸緩衝液の替わりに、pHメーター標準液を、溶出試験に使っても大丈夫なのか?」
なのではないでしょうか?
先入観の全くない(=全く勉強していない???)学生に尋ねたら、当然、このような疑問になります。また、はじめから落し蓋法を知っている学生にとっては、そもそも「なぜ、炭酸緩衝液を使わないのか?実験の手間はほとんど変わらないのに、なぜリン酸緩衝液を使っているの?」と、なります。
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「どのような場合に、生体と同じ炭酸緩衝液の替わりに、pHメーター標準液を、溶出試験に使っても大丈夫なのか?」
いまのところ、わかりません。
一方、これまでの研究で、以下の場合に、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液で溶出プロファイルに大きな差がみられることが、実験事実として知られています。
原薬形態
酸性薬物(フリー体、溶出速度)(pKa < pH)
塩基性薬物(フリー体、溶出速度)(pKa > pH)
酸性薬物(塩、フリー体の表面析出)(pKa < pH)
塩基性薬物(塩、フリー体の表面析出)(pKa > pH)
酸性薬物(フリー体、バルク析出速度)(pKa < pH)
塩基性薬物(フリー体、バルク析出速度)(pKa > pH)
製剤
腸溶性製剤(これは、最も研究事例が多く、炭酸緩衝液でなければLevel A IVIVCが取れないことが知られている。)
固体分散体(pH依存性の溶出を示すポリマーを使用した場合)
味マスキング
その他、理論的には、原薬や添加剤の溶解性がpHの影響を受ける様々な場合に、差がみられる可能性があります。
共結晶(薬物あるいは共結晶子のどちらかあるいは両方が、pKa < pHの酸、あるいは、pKa > pHの塩基の場合)
pH調整剤を含む製剤
解離性の添加剤を含む場合(ステアリン酸マグネシウムなど多数)
これらについては、今後順次検討されていくと思います。
(興味のある方、お知らせください。共同研究しましょう。)
更には、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液で、濡れ性がことなることを示唆している論文もあります。
また、今回のポスター発表では、膜透過性や溶液安定性も、リン酸緩衝液と炭酸緩衝液で異なることを発表しました。
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落し蓋法は、とても簡単です。再現性は、極めて高いです。
したがって、現時点で最善の戦略は、炭酸緩衝液(落し蓋法)を使うことです。
社内事情などにより(上司の頭が固いとか?)、どうしてもリン酸緩衝液にこだわり続けたいのであれば、まずはじめに、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液で溶出を比較し、同じ結果になるのが確認されれば、リン酸緩衝液を使う、ということになります。ただし、原薬形態や製剤を変更する毎に、再確認する必要があります。
炭酸緩衝液(落し蓋法)は、実験操作的には、ほんの僅かな変更です。しかし、それで得られる結果の差は大きいです。
今回、PCF-Jに参加された皆さんで、一緒に、サイエンスを前に進めていきましょう。
ご参加いただいた方々、大変ありがとうございました。
残念ながら今回は参加できなかった皆様、来年は是非ご参加ください。
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まとめのディスカッションの際に、「炭酸緩衝液はどのような場合に使うべきか?」というご質問がありました。溶出試験には、これまでずっと、リン酸緩衝液が使用されてきたことを考えると、当然のご質問です。各国の局方に記載されているのもリン酸緩衝液ですし(JP2, USP SIF)、学校の教科書にもそう書いてあります。
さて、ここで一度、ゼロベースで、先入観抜きに考えてみたいと思います。
生体のpHは、炭酸緩衝液で維持されています。これは、確実な事実です。
一方で、USP SIFやJP2の由来は、pHメーター用の中性pH標準液(pH 6.8リン酸緩衝液)です。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/553656
そうすると、本来、我々が本来問わなければならないのは、
「どのような場合に、生体と同じ炭酸緩衝液の替わりに、pHメーター標準液を、溶出試験に使っても大丈夫なのか?」
なのではないでしょうか?
先入観の全くない(=全く勉強していない???)学生に尋ねたら、当然、このような疑問になります。また、はじめから落し蓋法を知っている学生にとっては、そもそも「なぜ、炭酸緩衝液を使わないのか?実験の手間はほとんど変わらないのに、なぜリン酸緩衝液を使っているの?」と、なります。
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「どのような場合に、生体と同じ炭酸緩衝液の替わりに、pHメーター標準液を、溶出試験に使っても大丈夫なのか?」
いまのところ、わかりません。
一方、これまでの研究で、以下の場合に、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液で溶出プロファイルに大きな差がみられることが、実験事実として知られています。
原薬形態
酸性薬物(フリー体、溶出速度)(pKa < pH)
塩基性薬物(フリー体、溶出速度)(pKa > pH)
酸性薬物(塩、フリー体の表面析出)(pKa < pH)
塩基性薬物(塩、フリー体の表面析出)(pKa > pH)
酸性薬物(フリー体、バルク析出速度)(pKa < pH)
塩基性薬物(フリー体、バルク析出速度)(pKa > pH)
製剤
腸溶性製剤(これは、最も研究事例が多く、炭酸緩衝液でなければLevel A IVIVCが取れないことが知られている。)
固体分散体(pH依存性の溶出を示すポリマーを使用した場合)
味マスキング
その他、理論的には、原薬や添加剤の溶解性がpHの影響を受ける様々な場合に、差がみられる可能性があります。
共結晶(薬物あるいは共結晶子のどちらかあるいは両方が、pKa < pHの酸、あるいは、pKa > pHの塩基の場合)
pH調整剤を含む製剤
解離性の添加剤を含む場合(ステアリン酸マグネシウムなど多数)
これらについては、今後順次検討されていくと思います。
(興味のある方、お知らせください。共同研究しましょう。)
更には、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液で、濡れ性がことなることを示唆している論文もあります。
また、今回のポスター発表では、膜透過性や溶液安定性も、リン酸緩衝液と炭酸緩衝液で異なることを発表しました。
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落し蓋法は、とても簡単です。再現性は、極めて高いです。
したがって、現時点で最善の戦略は、炭酸緩衝液(落し蓋法)を使うことです。
社内事情などにより(上司の頭が固いとか?)、どうしてもリン酸緩衝液にこだわり続けたいのであれば、まずはじめに、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液で溶出を比較し、同じ結果になるのが確認されれば、リン酸緩衝液を使う、ということになります。ただし、原薬形態や製剤を変更する毎に、再確認する必要があります。
炭酸緩衝液(落し蓋法)は、実験操作的には、ほんの僅かな変更です。しかし、それで得られる結果の差は大きいです。
今回、PCF-Jに参加された皆さんで、一緒に、サイエンスを前に進めていきましょう。