非攪拌水層に関するFAQ
2024-10-11
Q. 非攪拌水層(unstirred water layer, UWL)は目に見えないけど本当に存在していますか?
A. 粘性のある液体と固体との間に、UWLは必ず存在します。可視化技術を用いることで実際に見ることができます(YouTubeにも多数動画があります。UWLは流体力学では境界層と呼ばれます。)
Q. UWLの厚み(h)はどれくらいですか?
A. ヒト小腸では、およそh = 300 μmと推定されており、絨毛を覆うように存在しています。薬物粒子上のUWL(=拡散層)は、一般に粒子半径 (h = r)と同じです。(d < 60 μm の場合)
Q. UWLとムチン層の関係は?
A. ムチン層は、UWLをより厚くしていますが、UWLにムチン層が必要なわけではありません。したがって、ムチン層が存在しない膜透過評価系でもUWLは存在します。(Caco-2, PAMPAなど)。攪拌条件によっては、1000 μ m以上になる場合も多いです。したがって、Caco-2のPappからPeffを直接予測することはできません(×logPeff = AlogPapp + B)。(なお、この式ではfree fractionも考慮されませんので、食事の影響なども予測できません。)
Q. 薬物はムチン層を透過できますか?
A. ムチンは3次元網目構造をしています。網目の隙間は数μmなので、薬物分子や胆汁ミセルは素通りします。
Q. UWLは薬物の有効膜透過性(Peff)に影響を与えますか?
A. 薬物の拡散係数(D)は分子量に依存しますが、およそD = 5 × 10-6 cm2/s程度です。したっがって、非攪拌水層透過係数(PUWL)は、最大でもPUWL = D/h = 1.7 × 10-4 cm/sです。
Peff =PE/( 1/ PUWL + 1/ (VE x Pep))の関係になりますので、 Peffの最大値はおよそ5 × 10-4 cm/sになります。
PE:Plicae expansion (=3), VE: villi expansion (=10), Pep: 上皮細胞膜透過係数
また、 Pepが20 × 10-6 cm/s以上(logDpH6.5で1程度以上)の薬物では、UWLが律速となる場合が多くなります。
Q. UWLは食事の影響にどう関係しますか?
A. 胆汁ミセルはUWL中を拡散できます。一方で、上皮細胞膜は、フリー体のみが透過します。
薬物が胆汁ミセルに結合する場合(結合分率: fu)、
UWL内における有効拡散係数は若干低下します(胆汁ミセルは拡散係数が小さいため)。
有効上皮細胞膜透過係数(Pep’)は、フリー体理論に基づけば、Pep’= fu × Pepになります。
吸収速度(ka)や吸収flux (J)は、見かけの溶解濃度(Cdissolv, free分子 + 胆汁結合分子)×Peffに比例します。
膜透過律速の場合:Cdissolvは一定なので、Pep’またはPUWLの低下に伴い、 kaや Jは低下します。食後時のFaが1以下の場合、負の食事の影響(AUC比)が観察されます。ただし、UWL律速の場合、 Peffは1× 10-4 cm/s以上であるため、Faは1に振り切れているので、kaが低下してもAUCに影響がでません(Fa = 1 – exp( -ka T)) 。Cmaxの低下は胃排泄速度の低下が大きく影響しますが、Peffの低下もさらに影響している可能性があります。
溶解度-UWL透過律速の場合:胆汁ミセルによる可溶化でCdissolvは上昇します。一方でPUWLは若干低下のみです。したがって、 kaや Jは上昇します。絶食時のFaが1以下であれば、食事の影響は正になります。
溶解度-上皮細胞膜透過律速の場合:胆汁ミセルによる可溶化でCdissolvは上昇します。一方でPepは同程度低下します。したがって、 CdissolvとPeffはトレードオフの関係にあり、食事の影響はほぼありません。
Q. UWLは製剤設計にどのように関係しますか?
A. 食事の影響の議論と同様に、膜透過の律速がPUWLかPep’かで、可溶化製剤の影響は大きく異なります。最近では、固体分散体からのLLPS粒子(コロイド粒子)やナノ結晶がUWLに入ることで物質移動速度を上げると考えられております(particle drifting effect)。
なお、in vitro評価系において透析膜を使っている例がありますが、その場合、膜透過係数がとても小さいので透析膜等が律速になります(ので動的透析法で非結合型分率(free fraction)の測定ができるわけですね?)。また、その結果として、透析膜ではsolubility-permeability trade offが顕著に表れます。しかし、PAMPA膜やCaco-2ではそのようなことが無くなります。なお、上記の式からも分かる通り、小腸においては絨毛構造があるため、さらに細胞膜透過速度は高くなります。したがって、in vivo小腸では、solubility-permeability trade-offは控えめになるので、可溶化製剤により、吸収速度と吸収量は増加します。
A. 粘性のある液体と固体との間に、UWLは必ず存在します。可視化技術を用いることで実際に見ることができます(YouTubeにも多数動画があります。UWLは流体力学では境界層と呼ばれます。)
Q. UWLの厚み(h)はどれくらいですか?
A. ヒト小腸では、およそh = 300 μmと推定されており、絨毛を覆うように存在しています。薬物粒子上のUWL(=拡散層)は、一般に粒子半径 (h = r)と同じです。(d < 60 μm の場合)
Q. UWLとムチン層の関係は?
A. ムチン層は、UWLをより厚くしていますが、UWLにムチン層が必要なわけではありません。したがって、ムチン層が存在しない膜透過評価系でもUWLは存在します。(Caco-2, PAMPAなど)。攪拌条件によっては、1000 μ m以上になる場合も多いです。したがって、Caco-2のPappからPeffを直接予測することはできません(×logPeff = AlogPapp + B)。(なお、この式ではfree fractionも考慮されませんので、食事の影響なども予測できません。)
Q. 薬物はムチン層を透過できますか?
A. ムチンは3次元網目構造をしています。網目の隙間は数μmなので、薬物分子や胆汁ミセルは素通りします。
Q. UWLは薬物の有効膜透過性(Peff)に影響を与えますか?
A. 薬物の拡散係数(D)は分子量に依存しますが、およそD = 5 × 10-6 cm2/s程度です。したっがって、非攪拌水層透過係数(PUWL)は、最大でもPUWL = D/h = 1.7 × 10-4 cm/sです。
Peff =PE/( 1/ PUWL + 1/ (VE x Pep))の関係になりますので、 Peffの最大値はおよそ5 × 10-4 cm/sになります。
PE:Plicae expansion (=3), VE: villi expansion (=10), Pep: 上皮細胞膜透過係数
また、 Pepが20 × 10-6 cm/s以上(logDpH6.5で1程度以上)の薬物では、UWLが律速となる場合が多くなります。
Q. UWLは食事の影響にどう関係しますか?
A. 胆汁ミセルはUWL中を拡散できます。一方で、上皮細胞膜は、フリー体のみが透過します。
薬物が胆汁ミセルに結合する場合(結合分率: fu)、
UWL内における有効拡散係数は若干低下します(胆汁ミセルは拡散係数が小さいため)。
有効上皮細胞膜透過係数(Pep’)は、フリー体理論に基づけば、Pep’= fu × Pepになります。
吸収速度(ka)や吸収flux (J)は、見かけの溶解濃度(Cdissolv, free分子 + 胆汁結合分子)×Peffに比例します。
膜透過律速の場合:Cdissolvは一定なので、Pep’またはPUWLの低下に伴い、 kaや Jは低下します。食後時のFaが1以下の場合、負の食事の影響(AUC比)が観察されます。ただし、UWL律速の場合、 Peffは1× 10-4 cm/s以上であるため、Faは1に振り切れているので、kaが低下してもAUCに影響がでません(Fa = 1 – exp( -ka T)) 。Cmaxの低下は胃排泄速度の低下が大きく影響しますが、Peffの低下もさらに影響している可能性があります。
溶解度-UWL透過律速の場合:胆汁ミセルによる可溶化でCdissolvは上昇します。一方でPUWLは若干低下のみです。したがって、 kaや Jは上昇します。絶食時のFaが1以下であれば、食事の影響は正になります。
溶解度-上皮細胞膜透過律速の場合:胆汁ミセルによる可溶化でCdissolvは上昇します。一方でPepは同程度低下します。したがって、 CdissolvとPeffはトレードオフの関係にあり、食事の影響はほぼありません。
Q. UWLは製剤設計にどのように関係しますか?
A. 食事の影響の議論と同様に、膜透過の律速がPUWLかPep’かで、可溶化製剤の影響は大きく異なります。最近では、固体分散体からのLLPS粒子(コロイド粒子)やナノ結晶がUWLに入ることで物質移動速度を上げると考えられております(particle drifting effect)。
なお、in vitro評価系において透析膜を使っている例がありますが、その場合、膜透過係数がとても小さいので透析膜等が律速になります(ので動的透析法で非結合型分率(free fraction)の測定ができるわけですね?)。また、その結果として、透析膜ではsolubility-permeability trade offが顕著に表れます。しかし、PAMPA膜やCaco-2ではそのようなことが無くなります。なお、上記の式からも分かる通り、小腸においては絨毛構造があるため、さらに細胞膜透過速度は高くなります。したがって、in vivo小腸では、solubility-permeability trade-offは控えめになるので、可溶化製剤により、吸収速度と吸収量は増加します。