クリアランスの説明(物性製剤研究者向け) その5
2024-05-31
それでは、最後に、ほとんどの教科書に掲載されているWell-stirred model (WSM_classic)を、Extended clearance modelから導いてみましょう。
Extended clearance model
WSM_CBP: CL_H = 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_CELL_u))
WSM_ICF: CL_CELL_u = 1/ (1/PS_CPB_ICF_u + 1/(PS_CPB_ICF_u/PS_ICF_CPB_u x CL_EZ_u))
WSM_ICFにおいて、
(a) 肝酵素固有クリアランスが肝細胞固有クリアランスを決定し、
なおかつ
(b) 毛細血管と肝細胞内の間に能動輸送が無い場合、すなわち、受動拡散(PS_PD_u, PD: passive diffusion)のみの場合、
PS_CPB_ICF_u = PS_ICF_CPB_u = PS_PD_u
したがって、
CL_CELL_u ≒ PS_PD_u/PS_PD_u x CL_EZ_u = CL_EZ_u
これを、WSM_CBPの式に代入すると、
CL_H ≒ 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_EZ_u))
血液中の非結合型分率はどの場所でも同じなのでfu_CPB = fu_Bと表すことにします。また、WSM_classicの原著論文では、肝固有クリアランスCLintは、”代謝酵素近辺の薬物濃度で定義する”とされています。つまり、そもそも、肝固有クリアランスCLintは、肝酵素固有クリアランスの意味です。CL_EZ_u = CLintです。したがって、薬物動態でよく使われる記号に書き換えると、
WSM_classic: CL_H ≒ 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_B x CLint))
この式を変形すると、CL_H = Q_H x fu_B x CLint / (Q_H + fu_B x CLint)、という、おなじみの式になります。
ここで、注意すべき点は、WSM_CBPとWSM_classicの2つの式は、一見同じ形をしていますが、パラメータの意味は全く違うということです。
WSM_CBP: CL_H = 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_CELL_u))
WSM_classic: CL_H ≒ 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_B x CLint))
(この式のホントの意味は、(a)(b)が成立する場合のみ、CL_H ≒ 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_EZ_u)) ということです)
非常に多くの教科書や論文では、肝固有クリアランスCLintを、CL_CELL_uあるいはCL_EZ_uのどちらにでも取れるように曖昧に定義しており、これが混乱の一因になっています。
CL_CELL_uは、毛細血管血中の非結合型薬物濃度 (C_CPB_u)
CL_EZ_uは、細胞内液中の非結合型薬物濃度 (C_ICF_u)
で、それぞれ定義されるクリアランスです。
また、WSM_classicが成り立つのは、
(a) 肝酵素固有クリアランスが肝細胞固有クリアランスを決定
(b) 毛細血管と肝細胞内の間に能動輸送が無く、受動拡散のみ
の両者が成立する場合です(PS_PD_u >> CL_EZ_u)。
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なお、受動拡散のみの場合、
WSM_CBP: CL_H = 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_CELL_u))
WSM_ICF: CL_CELL_u = 1/ (1/PS_PD_u + 1/CL_EZ_u))
となります。WSM_CBPとWSM_ICFが同じ形になっていることがわかると思います。これは、肝臓内に細胞があり、細胞内に酵素がある、という入れ子構造を反映しています。
---------
この記事が、薬物動態におけるクリアランス論争を、解決に導いてくれることを願っております。
Extended clearance model
WSM_CBP: CL_H = 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_CELL_u))
WSM_ICF: CL_CELL_u = 1/ (1/PS_CPB_ICF_u + 1/(PS_CPB_ICF_u/PS_ICF_CPB_u x CL_EZ_u))
WSM_ICFにおいて、
(a) 肝酵素固有クリアランスが肝細胞固有クリアランスを決定し、
なおかつ
(b) 毛細血管と肝細胞内の間に能動輸送が無い場合、すなわち、受動拡散(PS_PD_u, PD: passive diffusion)のみの場合、
PS_CPB_ICF_u = PS_ICF_CPB_u = PS_PD_u
したがって、
CL_CELL_u ≒ PS_PD_u/PS_PD_u x CL_EZ_u = CL_EZ_u
これを、WSM_CBPの式に代入すると、
CL_H ≒ 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_EZ_u))
血液中の非結合型分率はどの場所でも同じなのでfu_CPB = fu_Bと表すことにします。また、WSM_classicの原著論文では、肝固有クリアランスCLintは、”代謝酵素近辺の薬物濃度で定義する”とされています。つまり、そもそも、肝固有クリアランスCLintは、肝酵素固有クリアランスの意味です。CL_EZ_u = CLintです。したがって、薬物動態でよく使われる記号に書き換えると、
WSM_classic: CL_H ≒ 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_B x CLint))
この式を変形すると、CL_H = Q_H x fu_B x CLint / (Q_H + fu_B x CLint)、という、おなじみの式になります。
ここで、注意すべき点は、WSM_CBPとWSM_classicの2つの式は、一見同じ形をしていますが、パラメータの意味は全く違うということです。
WSM_CBP: CL_H = 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_CELL_u))
WSM_classic: CL_H ≒ 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_B x CLint))
(この式のホントの意味は、(a)(b)が成立する場合のみ、CL_H ≒ 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_EZ_u)) ということです)
非常に多くの教科書や論文では、肝固有クリアランスCLintを、CL_CELL_uあるいはCL_EZ_uのどちらにでも取れるように曖昧に定義しており、これが混乱の一因になっています。
CL_CELL_uは、毛細血管血中の非結合型薬物濃度 (C_CPB_u)
CL_EZ_uは、細胞内液中の非結合型薬物濃度 (C_ICF_u)
で、それぞれ定義されるクリアランスです。
また、WSM_classicが成り立つのは、
(a) 肝酵素固有クリアランスが肝細胞固有クリアランスを決定
(b) 毛細血管と肝細胞内の間に能動輸送が無く、受動拡散のみ
の両者が成立する場合です(PS_PD_u >> CL_EZ_u)。
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なお、受動拡散のみの場合、
WSM_CBP: CL_H = 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_CELL_u))
WSM_ICF: CL_CELL_u = 1/ (1/PS_PD_u + 1/CL_EZ_u))
となります。WSM_CBPとWSM_ICFが同じ形になっていることがわかると思います。これは、肝臓内に細胞があり、細胞内に酵素がある、という入れ子構造を反映しています。
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この記事が、薬物動態におけるクリアランス論争を、解決に導いてくれることを願っております。