クリアランスの説明(物性製剤研究者向け) その3

2024-05-20
それでは、次に、細胞内の酵素レベルでのクリアランス(CL_EZ)を考えてみます。
通常、細胞内液(intracellular fluid, ICF)の非結合型薬物の濃度は均一と仮定しますが、前回までの議論と論理展開を統一するため、まずは、代謝酵素付近と血管側の細胞膜(basolateral membrane)付近の薬物濃度を、それぞれ別々に、C_ICF_EZおよびC_ICF_BMと定義します。

マスバランス(MBSS)は、

C_CPB x PS_CPB_ICF = C_ICF_EZ x CL_EZ + C_ICF_BM x PS_ICF_CPB

になります。ここで、PS_CPB_ICFは、毛細血管から細胞内への取り込み膜透過クリアランス(influx)です。また、PS_ICF_CPBは、細胞内から毛細血管への排泄膜透過クリアランス(efflux)です。これらの膜透過クリアランスが、受動拡散とトランスポータによる能動輸送を両方含みます(和になります)。
C_ICF_EZ x CL_EZは、細胞内から酵素(EZ)が薬物を除去(CL)しているという意味です。

この式では、濃度が3つ出てきます。C_CPB、C_ICF_EZ、C_ICF_BMです。したがって、このままでは、2つの濃度間の関係式に変換することができません。
そこで、細胞内液は良く撹拌されていて(Well-stirred model (WSM))で、薬物濃度は均一(= C_ICF)と仮定します。この仮定を、WSM_ICFとします。

C_ICF_EZ = C_ICF_BM = C_ICF

したがって、この関係式を代入して、

C_CPB x PS_CPB_ICF = C_ICF x CL_EZ + C_ICF x PS_ICF_CPB

ここで、非結合型分率(fu)の分のみが細胞により除去される仮定すると(free fraction theory (FFT))

fu_CPB x C_CPB x PS_CPB_ICF_u = fu_ICF x C_ICF x CL_EZ_u + fu_ICF x C_ICF x PS_ICF_CPB_u


変形すると、

C_ICF_u/C_CPB_u = PS_CPB_ICF_u / (CL_EZ_u + PS_ICF_CPB_u)

が得られます。さらに、EELから

C_CPB_u x CL_CELL_u = C_ICF_u x CL_EZ_u

なので、

CL_CELL_u = 1/ (1/PS_CPB_ICF_u + 1/(PS_CPB_ICF_u/PS_ICF_CPB_u x CL_EZ_u))

という式が導かれます。ここで、重要なことに一つは、この式に、細胞内非結合型分率(fu_ICF)が出てこない点です。つまり、C_ICF_uとCL_CELL_uに、fu_ICFは影響を与えません(定常状態に置いては、です)。

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前回、導いた式と、今回導いた式を並べると、

WSM_CBP: CL_H = 1/ (1/Q_H + 1/ (fu_CPB x CL_CELL_u))
WSM_ICF: CL_CELL_u = 1/ (1/PS_CPB_ICF_u + 1/(PS_CPB_ICF_u/PS_ICF_CPB_u x CL_EZ_u))

になります。この2つの組み合わせが、一般的に、extended clearance model (ECM)と呼ばれているものです。ところで、WSM_ICFに対して、毛細血管内の薬物濃度分布に関する別のモデルを組み合わせることもできます。例えば、parallel tube model(PTM_CPB)と組み合わせる場合、

PTM_CBP: CL_H = Q_H x (1 - exp (- fu_CPB x CL_CELL_u/Q_H))
WSM_ICF: CL_CELL_u = 1/ (1/PS_CPB_ICF_u + 1/(PS_CPB_ICF_u/PS_ICF_CPB_u x CL_EZ_u))

になります。