クリアランスの説明(物性製剤研究者向け) その1
2024-05-17
以前のブログで、クリアランス論争についてお話ししました。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/493410
私自身も査読者としてこの論争に巻き込まれました。その際に、著者から、査読レポートを論文発表してはというアドバイスをいただきました。そこで、編集長からの招待論文として、コメンタリーを書きました。クリアランス論争の論点が、多少は、整理されることを期待しています。
A commentary on “Are all measures of liver Kpuu a function of FH, as determined following oral dosing, or have we made a critical error in defining hepatic drug clearance?”
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0928098724001118
薬物動態分野において、クリアランス(CL)は、排泄速度(EL)と薬物濃度(C)から、以下のように定義されています。
排泄速度(EL) = 薬物濃度(C) x クリアランス(CL)
---
一般的には、全身をめぐる循環血(systemic blood)に含まれる薬物濃度(C_STB)を測定しますので、その濃度に対するクリアランスは、全身クリアランス(CL_TB, total body)と定義されます。
EL = C_STB x CL_TB
なぜこう定義するかと言うと、全身クリアランスは、循環血中から、体が薬物を除去する能力だからです。
---
次に、体内の臓器ごとのクリアランスを考えます。ここでは、肝クリアランスを例にします。
肝クリアランス(CL_H)は、肝臓に流入してくる血液(flow-in blood)に含まれる薬物濃度(C_FIB)で定義されます。
EL = C_FIB x CL_H
なぜこう定義するかと言うと、肝クリアランスは、肝臓に流入してくる血液中から、肝臓が薬物を除去する能力だからです。
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次に、臓器内の細胞ごとのクリアランスを考えます。ここでは、肝細胞クリアランスを例にします。
肝細胞クリアランス(CL_CELL)は、肝臓内の毛細管血液(capillary blood)に含まれる薬物濃度(C_CPB)で定義されます。
EL = C_CPB x CL_CELL
なぜこう定義するかと言うと、肝細胞クリアランスは、肝臓内の毛細管血から、肝細胞が薬物を除去する能力だからです。
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最後に、肝細胞内の酵素ごとのクリアランスを考えます。酵素には、CYPや胆汁排泄トランスポーターが含まれます。
肝酵素クリアランス(CL_EZ)は、細胞内液(intracellular fluid)に含まれる薬物濃度(C_ICF)で定義されます。
EL = C_ICF x CL_EZ
なぜこう定義するかと言うと、肝酵素クリアランスは、細胞内液から、酵素が薬物を除去する能力だからです。
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以上のように、薬物を除去する装置(elimination machinary)を、体レベルでとらえるか、臓器レベルでとらえるか、細胞レベルでとらえるか、あるいは、酵素レベルでとらえるか?で、各レベルのクリアランスを定義します。どこから、何によって、クリアされるのか?を明確に定義することがとても大切です。
まとめると、
EL = C_STB x CL_TB 全身クリアランスは、循環血中から、体が薬物を除去する能力
EL = C_FIB x CL_H 肝クリアランスは、肝臓に流入してくる血液中から、肝臓が薬物を除去する能力
EL = C_CPB x CL_CELL 肝細胞クリアランスは、肝臓内の毛細管血から、肝細胞が薬物を除去する能力
EL = C_ICF x CL_EZ 肝酵素クリアランスは、細胞内液から、酵素が薬物を除去する能力
ここで、C_FIB、C_CPB、および、C_ICFは、現在の技術では、人体から直接採取して薬物濃度を測定することはできませんが、それでも実在(real entity)です。これらは、クリアランスを定義するための名目上(nominal)の濃度ではありません。実在です。一方で、クリアランスは、その次元(体積/時間)が示すとおり、名目上の値です(実際に、血液自体が、毎分何リットル、取り除かれるわけではないですよね。)。
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各濃度間の関係は、それらの比率(Kp)で表現できます。もし、非結合型分率のみを考えるならばKpuuになります。ここでは簡単のため、非結合型分率はすべて1とします。
薬物濃度は全部で4か所分ありますので、それらの比率は、順々に3つ定義できます。
Kpuu_FIB/STB = C_FIB/STB
Kpuu_CPB/FIB = C_CPB/FIB
Kpuu_ICF/CPB = C_ICF/CPB
さらに、循環血と細胞内液を比べるのであれば、
Kpuu_ICF/STB = Kpuu_FIB/STB x Kpuu_CPB/FIB x Kpuu_ICF/CPB
と書くことができます。
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ここで、肝臓内を流れている毛細管血液について考えてみましょう。肝臓で代謝/排泄が起きるのですから、当然、肝臓を流れている間に、毛細管血液中の薬物濃度は低下します。したがって、
Kpuu_CPB/FIB < 1になります。
また、肝臓内を血液がゆっくり通過する方が、肝臓内にとどまる時間が長くなるので、毛細管血液中の薬物濃度は、血流速度(Q_H)に影響を受けます。
つまり、Kpuu_CPB/FIBは、
・血流速度(Q_H)に影響を受ける。
・Kpuu_CPB/FIB < 1
です。これには、何の不思議もないですよね?
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一方で、Kpuu_ICF/CPBは、毛細管血液中の薬物濃度(C_CPB)に対する細胞内薬物濃度(C_ICF)の比(C_ICF/C_CPB)です。したがって、血流速度に応じてC_CPBが高く成ればC_ICFも高くなりますが、その比は一定になります。また、血液と接している細胞膜にトランスポータがあれば、その影響を受けます。したがって、
・血流速度(Q_H)に影響を受けない、
・Kpuu_ICF/CPB は、トランスポータの有無によりかわる。(トランスポータが無ければ、Kpuu_ICF/CPB < 1。この濃度勾配が受動拡散の原動力です。)
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つまり、Kpuuが血流の影響を受けるかは、その定義によります。
次回は、数式を用いて、もうすこし考えていきますが、今回の議論だけでも、論点は理解できると思います。
https://www.c-sqr.net/c/pcfj/reports/493410
私自身も査読者としてこの論争に巻き込まれました。その際に、著者から、査読レポートを論文発表してはというアドバイスをいただきました。そこで、編集長からの招待論文として、コメンタリーを書きました。クリアランス論争の論点が、多少は、整理されることを期待しています。
A commentary on “Are all measures of liver Kpuu a function of FH, as determined following oral dosing, or have we made a critical error in defining hepatic drug clearance?”
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0928098724001118
薬物動態分野において、クリアランス(CL)は、排泄速度(EL)と薬物濃度(C)から、以下のように定義されています。
排泄速度(EL) = 薬物濃度(C) x クリアランス(CL)
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一般的には、全身をめぐる循環血(systemic blood)に含まれる薬物濃度(C_STB)を測定しますので、その濃度に対するクリアランスは、全身クリアランス(CL_TB, total body)と定義されます。
EL = C_STB x CL_TB
なぜこう定義するかと言うと、全身クリアランスは、循環血中から、体が薬物を除去する能力だからです。
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次に、体内の臓器ごとのクリアランスを考えます。ここでは、肝クリアランスを例にします。
肝クリアランス(CL_H)は、肝臓に流入してくる血液(flow-in blood)に含まれる薬物濃度(C_FIB)で定義されます。
EL = C_FIB x CL_H
なぜこう定義するかと言うと、肝クリアランスは、肝臓に流入してくる血液中から、肝臓が薬物を除去する能力だからです。
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次に、臓器内の細胞ごとのクリアランスを考えます。ここでは、肝細胞クリアランスを例にします。
肝細胞クリアランス(CL_CELL)は、肝臓内の毛細管血液(capillary blood)に含まれる薬物濃度(C_CPB)で定義されます。
EL = C_CPB x CL_CELL
なぜこう定義するかと言うと、肝細胞クリアランスは、肝臓内の毛細管血から、肝細胞が薬物を除去する能力だからです。
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最後に、肝細胞内の酵素ごとのクリアランスを考えます。酵素には、CYPや胆汁排泄トランスポーターが含まれます。
肝酵素クリアランス(CL_EZ)は、細胞内液(intracellular fluid)に含まれる薬物濃度(C_ICF)で定義されます。
EL = C_ICF x CL_EZ
なぜこう定義するかと言うと、肝酵素クリアランスは、細胞内液から、酵素が薬物を除去する能力だからです。
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以上のように、薬物を除去する装置(elimination machinary)を、体レベルでとらえるか、臓器レベルでとらえるか、細胞レベルでとらえるか、あるいは、酵素レベルでとらえるか?で、各レベルのクリアランスを定義します。どこから、何によって、クリアされるのか?を明確に定義することがとても大切です。
まとめると、
EL = C_STB x CL_TB 全身クリアランスは、循環血中から、体が薬物を除去する能力
EL = C_FIB x CL_H 肝クリアランスは、肝臓に流入してくる血液中から、肝臓が薬物を除去する能力
EL = C_CPB x CL_CELL 肝細胞クリアランスは、肝臓内の毛細管血から、肝細胞が薬物を除去する能力
EL = C_ICF x CL_EZ 肝酵素クリアランスは、細胞内液から、酵素が薬物を除去する能力
ここで、C_FIB、C_CPB、および、C_ICFは、現在の技術では、人体から直接採取して薬物濃度を測定することはできませんが、それでも実在(real entity)です。これらは、クリアランスを定義するための名目上(nominal)の濃度ではありません。実在です。一方で、クリアランスは、その次元(体積/時間)が示すとおり、名目上の値です(実際に、血液自体が、毎分何リットル、取り除かれるわけではないですよね。)。
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各濃度間の関係は、それらの比率(Kp)で表現できます。もし、非結合型分率のみを考えるならばKpuuになります。ここでは簡単のため、非結合型分率はすべて1とします。
薬物濃度は全部で4か所分ありますので、それらの比率は、順々に3つ定義できます。
Kpuu_FIB/STB = C_FIB/STB
Kpuu_CPB/FIB = C_CPB/FIB
Kpuu_ICF/CPB = C_ICF/CPB
さらに、循環血と細胞内液を比べるのであれば、
Kpuu_ICF/STB = Kpuu_FIB/STB x Kpuu_CPB/FIB x Kpuu_ICF/CPB
と書くことができます。
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ここで、肝臓内を流れている毛細管血液について考えてみましょう。肝臓で代謝/排泄が起きるのですから、当然、肝臓を流れている間に、毛細管血液中の薬物濃度は低下します。したがって、
Kpuu_CPB/FIB < 1になります。
また、肝臓内を血液がゆっくり通過する方が、肝臓内にとどまる時間が長くなるので、毛細管血液中の薬物濃度は、血流速度(Q_H)に影響を受けます。
つまり、Kpuu_CPB/FIBは、
・血流速度(Q_H)に影響を受ける。
・Kpuu_CPB/FIB < 1
です。これには、何の不思議もないですよね?
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一方で、Kpuu_ICF/CPBは、毛細管血液中の薬物濃度(C_CPB)に対する細胞内薬物濃度(C_ICF)の比(C_ICF/C_CPB)です。したがって、血流速度に応じてC_CPBが高く成ればC_ICFも高くなりますが、その比は一定になります。また、血液と接している細胞膜にトランスポータがあれば、その影響を受けます。したがって、
・血流速度(Q_H)に影響を受けない、
・Kpuu_ICF/CPB は、トランスポータの有無によりかわる。(トランスポータが無ければ、Kpuu_ICF/CPB < 1。この濃度勾配が受動拡散の原動力です。)
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つまり、Kpuuが血流の影響を受けるかは、その定義によります。
次回は、数式を用いて、もうすこし考えていきますが、今回の議論だけでも、論点は理解できると思います。