炭酸緩衝液中における難水溶性薬物塩の溶出プロファイル
2023-04-07
消化管内のpHは炭酸緩衝液で維持されています。一方で、溶出試験においては主にリン酸緩衝液が用いられています。
炭酸緩衝液は、
CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ⇔ H+ + HCO3-
という化学平衡によって緩衝作用を示しますが、二酸化炭素から炭酸への水和反応が極めて遅いため、表面pHに与える影響が通常の緩衝液とは性質が大きく異なることが知られています。
これまでの研究から、酸性フリー体原薬の溶出性や、pH依存性ポリマーを用いた製剤(腸溶製剤、固体分散体)の溶出性が、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液とで大きく異なることが知られています。
今回の論文では、難水溶性薬物塩の溶出プロファイルを炭酸緩衝液とリン酸緩衝液とで比較しました。
Dissolution Profiles of Poorly Soluble Drug Salts in Bicarbonate Buffer Aoi Sakamoto & Kiyohiko Sugano Pharmaceutical Research (2023)
https://link.springer.com/article/10.1007/s11095-023-03508-x
モデル薬物は、ピオグリタゾン塩酸塩とダントロレンナトリウム塩を用いました。炭酸緩衝液のpHは、落し蓋法で維持しました。pH、緩衝能、イオン強度は、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液とで同じに設定しました。(pH 6.5, I = 0.14 M, beta = 4.4 mM/pH)
結果、ピオグリタゾン塩酸塩とダントロレンナトリウム塩の溶出プロファイルは、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液とで大きく異なることが分かりました。溶出試験初期におけるPLM/SEMによる粒子観察や、バルク相析出試験との比較から、粒子表面におけるフリー体への変換が、原因と考えられました。
今回の結果を踏まえると、かなり広い範囲の原薬および製剤で、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液の違いがあると考えられます。現在、多様な原薬・製剤について検討しており、来月の薬剤学会で発表する予定です。
落し蓋法は、非常に簡単な方法で、リン酸緩衝液と手間はほどんどかかりません。また、従来のCO2バブリング法によるpH維持では、界面活性剤による泡立ちや気泡による溶出・析出挙動の変化が問題となっていましたが、それらも落し蓋法では問題ありません。
さらに、CO2バブリング法では特殊機器が必要であるため初期費用が高額ですが、落し蓋法は低コストで導入できます。
これからは、すくなくとも、in vivo予測を目的とする溶出試験においては、炭酸緩衝液が第一選択にすると良いと思います。
炭酸緩衝液は、
CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ⇔ H+ + HCO3-
という化学平衡によって緩衝作用を示しますが、二酸化炭素から炭酸への水和反応が極めて遅いため、表面pHに与える影響が通常の緩衝液とは性質が大きく異なることが知られています。
これまでの研究から、酸性フリー体原薬の溶出性や、pH依存性ポリマーを用いた製剤(腸溶製剤、固体分散体)の溶出性が、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液とで大きく異なることが知られています。
今回の論文では、難水溶性薬物塩の溶出プロファイルを炭酸緩衝液とリン酸緩衝液とで比較しました。
Dissolution Profiles of Poorly Soluble Drug Salts in Bicarbonate Buffer Aoi Sakamoto & Kiyohiko Sugano Pharmaceutical Research (2023)
https://link.springer.com/article/10.1007/s11095-023-03508-x
モデル薬物は、ピオグリタゾン塩酸塩とダントロレンナトリウム塩を用いました。炭酸緩衝液のpHは、落し蓋法で維持しました。pH、緩衝能、イオン強度は、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液とで同じに設定しました。(pH 6.5, I = 0.14 M, beta = 4.4 mM/pH)
結果、ピオグリタゾン塩酸塩とダントロレンナトリウム塩の溶出プロファイルは、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液とで大きく異なることが分かりました。溶出試験初期におけるPLM/SEMによる粒子観察や、バルク相析出試験との比較から、粒子表面におけるフリー体への変換が、原因と考えられました。
今回の結果を踏まえると、かなり広い範囲の原薬および製剤で、炭酸緩衝液とリン酸緩衝液の違いがあると考えられます。現在、多様な原薬・製剤について検討しており、来月の薬剤学会で発表する予定です。
落し蓋法は、非常に簡単な方法で、リン酸緩衝液と手間はほどんどかかりません。また、従来のCO2バブリング法によるpH維持では、界面活性剤による泡立ちや気泡による溶出・析出挙動の変化が問題となっていましたが、それらも落し蓋法では問題ありません。
さらに、CO2バブリング法では特殊機器が必要であるため初期費用が高額ですが、落し蓋法は低コストで導入できます。
これからは、すくなくとも、in vivo予測を目的とする溶出試験においては、炭酸緩衝液が第一選択にすると良いと思います。