Population balance modelによる消化管pH環境における薬物の析出モデリング

2023-03-20
化学工学の分野では、結晶析出過程の速度論的モデルとして、Population balance modelが広く用いられています。

一方で、経口吸収にPopulation balance modelを応用した例は、これまで尾崎さんの論文のみでした。その論文では、カルバマゼピン無水物から水和物への転移にPopulation balance modelを用いていました。

そこで、以下の論文では、医薬品開発にとって、より重要と考えられる、塩基性薬物の消化管pH変化による析出を、Population balance modelで記述・予測、できるか?を検討しました。

Application of Population Balance Model to Simulate Precipitation of Weak Base and Zwitterionic Drugs in Gastrointestinal pH Environment
Hibiki Yamamoto, Ravi Shanker, and Kiyohiko Sugano*

https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.molpharmaceut.3c00088

Population balance modelは、
1次核形成
2次核形成
結晶成長
の3つの数式からできており、各数式は2つの経験的速度論パラメータを持っています。

そこで、まず初めに、pHシフト試験の結果から、これらのパラメータを同定することにしました。しかし、パラメータ数が多いため、同定できませんでした。

そこで、2次核形成を無視して、かつ、結晶成長の過飽和度依存指数を2に固定しました。残り3つのパラメータのうち、1次核形成のパラメータについては、初期濃度と析出誘導時間の関係から求めました。最後の1つのパラメータは、目視によるフィッテイングで求めました。このような方法で、構築したモデルは、pHシフト試験の結果をよく再現(記述)しました。

次に、胃から小腸への薬物の移動を模擬したin vitro試験における析出を「予測」できるかについて、検討しました。
結果、1つの薬物を除いて、濃度推移および析出結晶の粒子径を、おおよその精度で予測できることが示されました。

今回の検討では、2次核形成を無視しています。
2次核形成は、結晶がパドルやベッセル壁面に衝突することで生じますが、今回用いた攪拌速度(50 rpm)や析出粒子の範囲(< 100 um)では、2次核形成は無視できることが知られています。
この仮定を入れることで、非線形重回帰を用いることなく、確実にパラメータ推定できるようにしました。

Population balance modelにより、誘導時間や、吸収時間スケール(数時間)での準安定領域を予測可能になりました。