LLPS濃度と結晶溶解度の関係
2022-11-23
Yalkowsky先生が提案した、General solubility equation (GSE)は、皆さんご存じと思います。
logS0c = 0.5 - logPoct - 0.01(Tm - T)
S0c: 結晶の固有溶解度
Poct: オクタノール分配係数
Tm: 融点
T: 温度
この数式は、熱力学の原理に対して、近似を導入して導かれています(実測データにフィッテイングを行った経験式ではありません。)。
GSEにおいて、
0.01(Tm-T)は、結晶の融解を
0.5-logPoctは、融解薬物相(融けた薬物のオイル相)と水相間の分配を
それぞれ表しています。
GSEは単純かつ汎用性の高い素晴らしい数式です。なによりも、物理的な意味が明確に表現されている点が、とても素晴らしいです。
一方で、薬物分子に対しては誤差が、やや大きいことが知られています。(+- 1 log unit程度)
ところで、GSEと同様にして、熱力学の原理から、LLPS濃度と結晶溶解度の間に、以下の関係式を導くことができます。
logS0c = logS0LLPS - 0.01(Tm - T)
logS0LLPS:固有LLPS濃度
これを、結晶-LLPS-融点の式(CLME)とします。
CLMEに対して以下の近似を行うとGSEになります。
logS0LLPS = 0.5 - logPoct
それでは、CLMEはどの程度の精度なのでしょうか?
Thermodynamic Correlation between Liquid–Liquid Phase
Separation and Crystalline Solubility of Drug-Like Molecules
https://www.mdpi.com/1999-4923/14/12/2560/pdf
GSEと比較して、CLMEはかなり良い相関を示します。
CLME GSE
AAE (log unit) 0.32 0.71
RMSE (log unit) 0.40 0.91
r2 0.90 0.56
N 39 39
このことから、GSEにおいては、0.5 - logPoctが誤差の主な原因であることが分かります。この知見は、固有溶解度のin silico予測にとってとても重要です。
また、CLMEを用いれば、固有溶解度と融点から、LLPS濃度をある程度の精度で、予測することができます。LLPS濃度は薬物固有のパラメータであり、フリー体濃度の最大値(すなわち、過飽和製剤で到達できるフリー体濃度の上限)ですので、製剤研究にとってはとても重要なパラメータです。したがって、候補化合物選択やプレフォーミュレーションの段階でLLPS濃度を求めておくことは、とても重要と思います。ただ、結晶化が速すぎてLLPS濃度を測定できない薬物も多いので、その場合には、CLMEはとても役に立つと思います。
更に相関をよくするには、水分活性の影響(=薬物の純オイル相とDrug-rich phaseの違い)や、比熱の温度依存性、さらには、融解エントロピーの薬物間差などを考慮に入れる必要があります。しかし、これらを抜きにしても、N = 39という多数の薬物間で、非常に良い相関が得られるというのは、驚きの発見でした(当たり前、と思われる方もいらっしゃるとは思いますが。。。)。
この論文では、我々が開発した、レーザーポインターを使うだけの、迅速かつ簡単なLLPS測定法を用いています(開発したというと大げさですが。。。)。漸次滴下法ではないので、強溶媒(有機溶媒)濃度の影響や、滴下中の(LLPS濃度到達前の)結晶化を、最小限に抑えることができます。操作は、とっても簡単です。是非、お試しください。
logS0c = 0.5 - logPoct - 0.01(Tm - T)
S0c: 結晶の固有溶解度
Poct: オクタノール分配係数
Tm: 融点
T: 温度
この数式は、熱力学の原理に対して、近似を導入して導かれています(実測データにフィッテイングを行った経験式ではありません。)。
GSEにおいて、
0.01(Tm-T)は、結晶の融解を
0.5-logPoctは、融解薬物相(融けた薬物のオイル相)と水相間の分配を
それぞれ表しています。
GSEは単純かつ汎用性の高い素晴らしい数式です。なによりも、物理的な意味が明確に表現されている点が、とても素晴らしいです。
一方で、薬物分子に対しては誤差が、やや大きいことが知られています。(+- 1 log unit程度)
ところで、GSEと同様にして、熱力学の原理から、LLPS濃度と結晶溶解度の間に、以下の関係式を導くことができます。
logS0c = logS0LLPS - 0.01(Tm - T)
logS0LLPS:固有LLPS濃度
これを、結晶-LLPS-融点の式(CLME)とします。
CLMEに対して以下の近似を行うとGSEになります。
logS0LLPS = 0.5 - logPoct
それでは、CLMEはどの程度の精度なのでしょうか?
Thermodynamic Correlation between Liquid–Liquid Phase
Separation and Crystalline Solubility of Drug-Like Molecules
https://www.mdpi.com/1999-4923/14/12/2560/pdf
GSEと比較して、CLMEはかなり良い相関を示します。
CLME GSE
AAE (log unit) 0.32 0.71
RMSE (log unit) 0.40 0.91
r2 0.90 0.56
N 39 39
このことから、GSEにおいては、0.5 - logPoctが誤差の主な原因であることが分かります。この知見は、固有溶解度のin silico予測にとってとても重要です。
また、CLMEを用いれば、固有溶解度と融点から、LLPS濃度をある程度の精度で、予測することができます。LLPS濃度は薬物固有のパラメータであり、フリー体濃度の最大値(すなわち、過飽和製剤で到達できるフリー体濃度の上限)ですので、製剤研究にとってはとても重要なパラメータです。したがって、候補化合物選択やプレフォーミュレーションの段階でLLPS濃度を求めておくことは、とても重要と思います。ただ、結晶化が速すぎてLLPS濃度を測定できない薬物も多いので、その場合には、CLMEはとても役に立つと思います。
更に相関をよくするには、水分活性の影響(=薬物の純オイル相とDrug-rich phaseの違い)や、比熱の温度依存性、さらには、融解エントロピーの薬物間差などを考慮に入れる必要があります。しかし、これらを抜きにしても、N = 39という多数の薬物間で、非常に良い相関が得られるというのは、驚きの発見でした(当たり前、と思われる方もいらっしゃるとは思いますが。。。)。
この論文では、我々が開発した、レーザーポインターを使うだけの、迅速かつ簡単なLLPS測定法を用いています(開発したというと大げさですが。。。)。漸次滴下法ではないので、強溶媒(有機溶媒)濃度の影響や、滴下中の(LLPS濃度到達前の)結晶化を、最小限に抑えることができます。操作は、とっても簡単です。是非、お試しください。