炭酸緩衝液が手軽に使用できるようになりました。

2021-03-01
Simple bicarbonate buffer system for dissolution testing: floating lid method and its application to colonic drug delivery system
Journal of Drug Delivery Science and Technology
Available online 27 February 2021, 102447

小腸の消化管液は炭酸により緩衝されています。一方、製剤の溶出試験には、これまでリン酸緩衝液が用いられてきました。本来、溶出試験には炭酸緩衝液を使用した方が良いのですが、炭酸緩衝液を大気中でそのまま使用すると、炭酸が抜けてしまい、pHがすぐに上昇してしまいます。

HCO3- + H+ ⇆ H2CO3 ⇆ H2O + CO2 (pKa = 6.04 at 37℃)

そこで、炭酸緩衝液を溶出試験に使用する際、これまでは、溶液中に二酸化炭素をバブリングして補っていました。しかし、この方法では、二酸化炭素ボンベとpHモニター付き自動レギュレータが必要でした。また、胆汁酸などの界面活性剤を用いる場合、バブリングにより泡が発生してしまいます。

しかし、なんと!、落し蓋をするだけで、炭酸緩衝液のpHをほぼ一定に維持できます(3時間でpH 0.1単位以下の上昇)。僕自身、初めてデータを見たときは、こんな簡単な方法でpHを維持できることに、とても驚きました。

実は二酸化炭素の水への溶解度はそこそこ高いのです(25 mM程度。消化管液の炭酸濃度はこれよりも低い。)。したがって、これ以下の濃度であれば、気体の交換(大気との接触)さえ防げれば、圧力をかけなくても、二酸化炭素は抜けません。炭酸飲料を見慣れているのでシュワシュワ発泡するようなイメージがありますが、実際、我々のお腹ではそんなことないですよね?

この方法は、腸溶性製剤の開発には大きな威力を発揮すると考えられます。また、解離性薬物の溶出速度も、一般に緩衝種の影響を受けることが知られています。さらに、リン酸塩の溶解度積が低い薬物では、リン酸緩衝液では過飽和特性を測定できませんが、炭酸緩衝液では可能になると考えられます。これらについては、鋭意、研究中です!

この方法は、日本料理に使う落し蓋をヒントにしているので、研究室では「落し蓋法」と呼んでいますが、適当な英語がないので論文ではfloating lidとしました。

日本発の「落し蓋法」に興味のある方、是非ご連絡ください。