本当の予測性は?

2020-06-23
経口吸収シミュレーションにより、簡単な物性データから経口吸収率(Fa)を予測出来れば、創薬や製剤開発の成功確率や効率は大幅に上がります。

20年以上前から市販の経口吸収シミュレーションはいくつかありますが、これまでCase studyばかりが報告されており、Fa予測性を系統的に検証した報告はありませんでした。Case studyでは、(i) 良い結果だけが報告されること(publication bias)、(ii) 臨床PKデータと上手く一致するように薬物ごとにparameter fittingしている場合がほとんどであること、などが問題視されており、FDAも信用性が不十分であるとしています[1]。
そこで、CoBiToコンソーシアムでは、各ソフトのFa予測の特性を系統的に検証しました[2]。果たして結果は???是非、論文をご覧ください。

なぜ、このような、一見、予想外の結果になるのか?
(1) 数理モデルの記述力と予測力は異なる。
(2) モデルが複雑になれば記述力は上がるが、予測力は必ずしもそうはならない。単純なモデルの方が予測力が高い場合も多い(cf. AIC)。
(3) Case studyのevidence levelは低い(cf. EBM)。
(4) そもそも血中濃度推移ごとにparameter fittingした場合、それは予測ではない(自己参照なので)。
(5) 予測力(予測スキル)は、ナイーブな予測(*)と比較しなければならない。

(1)-(5)はどれも「科学の方法論」としては良く知られたことなのですが、どれも我々の「直感」に反しているので、気を付けないといけないですね。

[1] M. Li, P. Zhao, Y. Pan, C. Wagner, Predictive performance of physiologically based pharmacokinetic models for the effect of food on oral drug absorption: Current status, CPT Pharmacometrics Syst. Pharmacol. 7 (2018) 82–89. doi:10.1002/psp4.12260.

[2] N. Matsumura, S. Hayashi, Y. Akiyama, A. Ono, S. Funaki, N. Tamura, T. Kimoto, M. Jiko, Y. Haruna, A. Sarashina, others, Prediction characteristics of oral absorption simulation software evaluated using structurally diverse low-solubility drugs, J. Pharm. Sci. 109 (2020) 1403–1416.

なお、この研究[2]で用いた市販ソフトについては、他の系統的な検証研究でも同様の結果が得られています[3, 4]。

[3] A. Margolskee, A.S. Darwich, X. Pepin, S.M. Pathak, M.B. Bolger, L. Aarons, A. Rostami-Hodjegan, J. Angstenberger, F. Graf, L. Laplanche, T. Müller, S. Carlert, P. Daga, D. Murphy, C. Tannergren, M. Yasin, S. Greschat-Schade, W. Mück, U. Muenster, D. van der Mey, K.J. Frank, R. Lloyd, L. Adriaenssen, J. Bevernage, L. De Zwart, D. Swerts, C. Tistaert, A. Van Den Bergh, A. Van Peer, S. Beato, A.T. Nguyen-Trung, J. Bennett, M. McAllister, M. Wong, P. Zane, C. Ollier, P. Vicat, M. Kolhmann, A. Marker, P. Brun, F. Mazuir, S. Beilles, M. Venczel, X. Boulenc, P. Loos, H. Lennernäs, B. Abrahamsson, IMI – oral biopharmaceutics tools project – evaluation of bottom-up PBPK prediction success part 1: Characterisation of the OrBiTo database of compounds, Eur. J. Pharm. Sci. 96 (2017) 598–609. doi:10.1016/j.ejps.2016.09.027.

[4] E. Sjögren, H. Thörn, C. Tannergren, Reply to ’Comment on “In Silico Modeling of Gastrointestinal Drug Absorption: Predictive Performance of Three Physiologically Based Absorption Models,” Mol. Pharm. 14 (2017) 340–343. doi:10.1021/acs.molpharmaceut.6b00775.

*ナイーブな予測とは、平均値による予測などです。例えば、過去10年間の夏の平均気温が25℃であれば、「今年も25℃になる」、と予測することができます。「サハラ砂漠は晴れる」という予測は、ほぼ当たります。この単純な予測を上回る予測が得られて初めて、モデルに「予測スキルがある」ということができます。より一般的には、ナイーブな予測とは「超簡単な予測法」といったイメージでしょうか?
食事の影響の予測なら、単純なFaSSIF/FeSSIFの溶解度比による予測と、シミュレーションによる予測を比べることになりますね。